圭子は、訓練校に通うため、久しぶりに朝の混雑した電車に乗った。電車の中は、ネクタイをしめた会社員や、圭子と同じ世代のOLたちもたくさんいた。どうして、自分だけがリストラされ、普通の社会生活から弾き飛ばされてしまったのか、今でも納得がいかないが、運命を恨んでも何の解決のもならない、と気を取り直し、訓練校まで早足で歩いていった。
教室の入ると、「就職支援担当」の本間先生と事務の人が、迎えてくれ、大きな声で、「おはよう!」と声をかけてくれた。そして、今日から使用する簿記の分厚いテキストと問題集を手渡してくれた。
簿記は、3級と2級を学び、会計ソフトも使って、実際に操作する予定になっている。今日は、簿記の3級のテキストと問題集が訓練生(受講生)に配られた。
圭子は、出席確認の印鑑を押した後、指定の座席に座って、テキストの中を開いてみた。
ほとんど知らない内容ばかりだった。しかも、数字がたくさん書いてあり、問題文を読んでみても、問題の意味さえよく理解できなかった。
「こんな難しい内容、本当についていけるのかしら?」
と圭子は不安になってきた。
「勉強なんて、最近少しもしていないし・・・。」
「大学も講義に出て、試験を受ければ、何とか単位をくれたのがほとんどだったっけ・・・。」と、職業訓練を申し込んだことが、安易な選択だったのかもしれないと、幾分後悔を感じた。
周りの訓練生の表情を見ると、黙って講義開始を待っている人、リラックスしている人や、にやにや笑っている人もいた。
「勉強に不安を感じているのは、私1人なのかしら?」
圭子は更に不安がつのってきた。